簡単に解雇しないで!能力不足の従業員
就業規則での解雇規定
多くの会社が「勤務成績又は業務遂行能力や技能が著しく不良であると判断した場合は解雇する」というように就業規則で規定しています。
中途採用などで雇用した社員が期待外れに能力不足だった場合、その規定に従ってすぐに解雇すればいいわけではありません。
労働契約法16条では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」としています。
就業規則の規定により解雇する場合でも、客観的に見て解雇せざるを得ない理由がないといけないのです。
客観的に合理的な理由とは?
職務遂行上求められる能力は、その職種や契約内容によってそれぞれ異なっていますし、一概に能力不足を理由に解雇できるかどうか判断することはできないので、明確な基準があるわけでもありません。
過去の判例ではどのように解されているでしょうか。
「労働能率が劣り,向上の見込みがない」という就業規則の規定につき,従業員として平均的な水準に達していなかったとしても,それだけでは不十分であり,「著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないとき」に限定して解雇を許容する趣旨であるとして,人事考課は相対評価であって絶対評価ではないから,直ちにこれに当たるとはいえない。また、会社が主張する「積極性がない」「協調性がない」等の抽象的理由には事実の裏づけがないこと,また会社が,教育,指導により当該社員の労働能率を向上させる余地があったのにこれを怠った事実を加えて,本件解雇を権利の濫用にあたり無効とする。(「セガ・エンタープライズ事件」平11.10.15東京地裁) |
能力不足だということを、人事考課などで公平な評価をしたうえで、さらに能力改善の指導、教育が十分行ったのかを記録しておくなどして、再三努力を施したが改善が見られなかったと判断された場合には、能力不足を理由として解雇することが可能になるものと考えられます。
ヘッドハンティングの場合はどうなるの?
専門的な技術や、高度な能力を買われて、特定の役職として採用されたようなヘッドハンティングの場合、能力不足で解雇できるのでしょうか。
ヘッドハンティングの場合好条件で採用されていますが、同時に具体的な高い成果(具体的な数字)が求められるという労働契約をあらかじめ締結していることが必要となります。
特定に限定された役職での採用であれば、それなりの報酬も支払われていることから能力不足による配置転換をすることまでは求められません。
☆締結する労働契約により解雇できるであろうポイント
・目標が具体的な数値として明示されている
・その数値が達成できなかった
・その職務に見合った高い報酬を提示されている
・他の職種や業務に配置転換する義務がない
いずれにしても、能力不足であることをきちんと記録として残しておくことは不可欠です。
解雇以外の方法はありますか?
解雇という一方的なやり方ではなく、退職勧奨して本人の合意に基づき退職という形をとる方法があります。
再三注意したが改善が見られなかったことを交えて本人に合意退職を求めます。
ただし、合意していたとしても本人の損失は大きいので、退職金を加算するなどの配慮が必要です。
人手不足の解消のためにきちんとした採用基準を設けずに採用してしまうと期待外れだったということにもなりかねません。
採用する際はいきなり即戦力として正規の社員とするのではなく、試用期間を設けて本人の能力をじっくり見てから正規社員として本採用することで後々のトラブルを防止することができます。